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熊本家庭裁判所 平成10年(家ロ)502号 審判 1998年12月18日

申立人 熊本県○○児童相談所長 X

事件本人 Y

未成年者 A

主文

1  上記本案審判申立事件の審判の効力が生ずるまでの間、事件本人の未成年者両名に対する職務の執行を停止し、

申立人 熊本県熊本市<以下省略>熊本県○○児童相談所長

をその職務代行者に選任する。

2  事件本人は、前項の職務代行者のその職務執行を妨害してはならない。

理由

1  求める保全処分

主文同旨

2  当裁判所の判断

本件記録及び申立外Cの審問の結果によれば、次の各事実が一応認められる。

(1)  未成年者A(以下「A」という。)は、申立外C(以下「実母」という。)と前夫との間の長女、未成年者B(以下「B」という。)は同二女で、両親が平成元年9月18日に未成年者両名の親権者をいずれも実母と定めて協議離婚した。事件本人は、実母と平成4年8月28日婚姻の届出をし、同日未成年者両名との養子縁組届出をした。

(2)  事件本人は、トラックの運転手として勤務し、実母の母親(未成年者両名の祖母)宅で一家4人で生活していたが、事件本人と祖母との折り合いが悪くなり、未成年者両名を連れて両親宅を出て一時車の中で生活した後、平成5年11月17日から一家5人で母方祖母宅で生活を始めた。

(3)  申立人は、平成10年6月ころ要保護児童の通告を受け、実母及び未成年者両名を事情聴取した結果、事件本人が未成年者両名に対し虐待を加えた疑いが強くなり、同年9月10日に未成年者両名を一時保護した。

(4)  養父は、実母を介して熊本県○○児童相談所に未成年者両名の家庭引き取りを強く要望している。

(5)  虐待の事実

(Aについて)

<1> Aが小学4年の3学期ころ、祖母方で家族6人が4.5畳間に雑魚寝していたとき、事件本人がAと同じ布団に入ってきてAの体に触れるようになり、しばらくして、事件本人はAに対し性交渉を強要し、その際、上記の狭い部屋で、実母が寝ている横で行われたが、実母はしばらくはこれに気付かなかった。事件本人は、Aが性関係を拒否すると、腹いせに実妹のBに暴力を振るったので、Aはこれを断ることができなかった。(なお、平成10年4月からAが中学校に入学して以来現在まで、事件本人のAに対するいわゆる性的虐待は収まっている。)

<2> 事件本人は、Aが小学6年の3学期ころまで頻繁に性交を強要し、近所で事件本人のAに対する性的素振りが噂になった。しかし、事件本人は、Aと性交類似の行為をしたことは認めたものの、性関係を持ったことは否定していたが、後記認定のとおり、実母や勤務先会社社長に問い詰められて、Aに対するいわゆる性的虐待を自認するに至っている。

(Bについて)

<1> 事件本人は、Bに対しては、小学校入学前の幼稚園のころから、箸の持ち方など日常生活の些細なことに厳しい躾をし、言うとおりにしないと、食事をするな、風呂に入るなと厳しく命じた。Bが小学3年のころ冬の季節に夕食の時間ころから裸で戸外に立たされたが、事件本人が寝た後実母に家に入れてもらった。更に、事件本人は、Bが小学4年ころ、度々、実姉の年齢でも解けない課題を出し勉強を強要し、問題を解けないと、木刀、ハンガー、ゴルフパターなどで殴る等の暴行を加えた。また、Bは、平成8年7月中旬ころ、些細なことから事件本人に右手首をねじり挙げるようにして投げ飛ばされる暴行を受け、右腕手首を骨折した。怪我したBは、両親に連れられ、宇土市内の「a整形外科病院」で治療を受けたが、その際、医師がその怪我を事件本人の暴行によるものと推認しても、事件本人からの後難を恐れたB本人の口からはその事実を聞き出すことはできなかった。Bが一時保護された際にも、そのすねにはアザが見られた。

<2> 事件本人は、家族でスーパー等で買物をしたり、パチンコに行った際、Bに車中で長時間正座を命じ、脱水症状等を防ぐため通行人が飲み物を差し入れた時、これを見つけるとBの顔、頭、手足などを叩いたり蹴ったりする暴行を加えて懲らしめたりした。

<3> 事件本人は、Aに性関係を迫り断られると、腹いせにBに対して暴力を振るった。なお、事件本人は、Aに対しても幼いころ暴力を振るった時期があったが、性的関係を持つようになってからは、暴力を行使することはなくなった。

以上のとおり、事件本人は感情に任せ、Bを木刀で手足を殴ったり、叩いたり、あるいは蹴ったりする暴行を加えたり、布団の前に立たせて寝せないなどの折檻をし、Aに対しては、長期間にわたり性的関係を強要したもので、これはいずれも未成年者両名に対する親権を濫用したものと一応認められる。

(6)  申立人は、事件本人の未成年者両名に対する虐待を避けるため、一時保護しているが、施設収容につき実母の承諾は得ているが、事件本人が未成年者両名の収容に反対し、実母を介して未成年者両名を早期に家に帰すよう要求しているため、児童養護施設に収容の承認を求め(平成10年(家)第1571号、第1572号)、併せて、本件保全処分の申立てにより養父の親権者としての職務を停止し、熊本県○○児童相談所長Xを同人の職務代行者に選任し、施設収容の同意に代えるものである。

なお、事件本人は、勤務先会社社長から問い詰められAに性交した事実を認めた。そして、当裁判所は、事件本人を審問するため、平成10年12月2日及び同年12月10日のいずれも午後1時30分に期日を指定して呼び出したが、事件本人は、「裁判所に行っても結果は変わらない。」と言って出頭しなかった。

以上の疎明事実を総合すると、事件本人の親権者としての職務の執行を停止させ、かつ、未成年者両名の養育の現状(一時保護中)を本案審判確定まで維持保存する必要があるというべく、その停止期間中は申立人をその職務代行者に選任するのが相当である。

よって、本件保全処分の申立てを認容することとし、家事審判法15条の3、同規則74条1項を適用して、主文のとおり審判する。

(家事審判官 吉武克洋)

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